映画は未来のチカラになる

徒然映画記録。映画を観て感じたこと。

【レビュー】タクシー運転手 約束は海を越えて

『パラサイト』ですっかり韓国映画の、というか主演のソン・ガンホ氏の魅力の虜になってしまい、今更2017年公開の『タクシー運転手』を鑑賞(UNEXT)。

 


韓国No.1大ヒット『タクシー運転手 約束は海を越えて』予告(韓国スター監督陣コメント入り)


『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』本編映像

 

恥ずかしながら、光州事件については知識が皆無に等しく、

また勉強する題材を与えてもらえたと心底嬉しく感じる。

日韓関係が冷え切る今こそ、韓国について学ぶのは大切だと思うし、

ご近所国として、憎みあうのではなく、手を取り合うための近道として、

「知ること」から始めてみたいと思う。

 

【予備知識・私と韓国】

・韓国人の友人が複数いる

・Seoulに2泊3日で滞在するも、韓国語の知識ゼロのため、今どこにいるのかすらわからない状況で旅行していた(友人と韓国人の友人に連れまわしてもらった)

・ハングルは読める程度

【予備知識・光州事件

1979年に当時の大統領、朴正熙(パク・チョンヒ)が暗殺されるまでの18年間、韓国は軍事独裁政権だった。

ところが、軍事独裁政権が幕を下ろしても、一部勢力は粛清クーデタで政権の実験を握り、学生らの民主化デモを弾圧した。

軍の実権を握っていたのは全斗煥(チョン・ドゥファン)。1980年に「非常戒厳令」を全国に発令し、金大中や金泳三などを連行した。

そんな中、民衆のデモは過激さを増す一方。今作の舞台となった「光州」は南部の街で、特にデモが激しかった。

映画でも登場するが、電話を通じなくしたり、メディアの情報統制が行われたため、真相が明らかになるには長い時間を要したのである。

それもそのはず、軍人たちによる民衆弾圧はすさまじいものだった。丸腰の市民をこん棒で殴りつけたり、蹴り上げたり、挙句射殺したりする。その光景は直視できないほど残酷であった。

最終的に認定された死傷者は、死者154人、行方不明者70人、負傷者1628人という(5.18記念財団より)。

このような暴行だけではなく、2018年には軍人により強姦されたという新たな証言が出るなど、いかに残虐非道なことが行われてきたかが徐々に明らかになっている。

韓国政府にとっては汚点の歴史かもしれない。

ただ、民衆にとっては「希望の光」を求めて戦ったあかしだ。

私がこの映画を見るまで知らなかったように、日本はもちろん、韓国にも事実を知らない若者がたくさんいると思う。

先人たちが戦ったからこそ今の私たちがある。そんな事実を改めて突きつけられる。

 

【タクシー運転手】

皆さんはタクシー運転手に対してどんな印象を抱くだろう。

どんな人が乗務員になっているだろうか。

「やむを得ず乗務員をしている事情がある人」「リタイアしたおじいさん」

「安月給」「酷な仕事」

そんなイメージがあるかもしれない。

近年は新卒採用を行ったり、女性ドライバーや若者を積極的に採用してイメージは少しずつ変わりつつあるが、マイナスイメージのほうが多いかもしれない。

実は、わたしは仕事でタクシー運転手と関わる機会が多く、

「タクシー」と聞いてついてくるマイナスイメージがどうにか払しょくされないかなと陰ながら願っている一人であったりする。

 

ただ、この映画を見ると

間違いなくタクシー運転手への見方が変わる。

「なんだ、めちゃくちゃかっこいいじゃん」

って言いたくなる。

 

実際、光州市ではタクシードライバーが集結して「タクシーデモ」が行われた。

民衆のために立ち上がるタクシー。

めちゃくちゃかっこいい。

そもそも、タクシーは小回りが利いて、どこにでも行くことができる素晴らしい公共交通機関だ。

タクシー運転手はどんな悪天候でも頑張っているので、ご高齢の方に限らずもっといろんな人に使ってもらいたい(?)

 

【ジャーナリズムの使命】

話しが映画からそれてしまった。

今作はタクシードライバー、実はめっちゃかっこいいじゃん

という要素のほかに(?)

ジャーナリストの使命がひしひしと伝わる。

「俺が行かなきゃ誰が行くんだよ」っていうドイツ人ジャーナリストが

「宣教師」と偽って入国したおかげで、まぁ実にいろんな人が犠牲になるわけだが…

彼らが命を張って真実を伝えたおかげで、国際的に軍部の弾圧が批判されるようになり、この事件は収束へ向かっていったのは確か(その間いろいろあったみたいですが割愛)。

ただ、この時それが成り立ったのは

・ジャーナリズムの力が信じられていたから

そして、なによりも

・インターネットが主流じゃなかったから

だと思う。

 

今、もしこのような弾圧が起きたら、みんなスマホで隠し撮りやらなんやらして、一気に世界中に拡散するでしょう。(一部ネット規制されているC●inaとかは除く)

この時代じゃそんなのありえない。

そもそもフィルムカメラなので!!!!!!!!!

フィルム知ってる???「現像」とか聞いたことないでしょ2000年代生まれ??

 

だからこそ「伝える」という使命を持った人が非常に大切だった。

彼らこそが世の中を変える希望だった。

 

ところが今の世の中はどうだろう。

一般市民でもトクダネをつかめて、SNSに投稿したとたん、そこにメディアが群がる始末。

「○○TVなんですが、その動画を使わせてもらえませんか」って聞いたことあるでしょ。

だれでも、ジャーナリストを気取れるようになった。

だから、世の中と、ジャーナリズムの価値は、日増しに変わってきているのだと思う。

人が何を信じるかは自由に選択できるようになった。たとえそれがデマでも、選ぶのは本人次第。必ずしも大きなメディアが真実を伝えているとは限らなくなり、むしろ市民目線の方が共感を得られるようになっている。

 

だから、この映画の「ジャーナリズム」と現代では、大きく質が異なると私は感じる。

【おにぎり】

この映画の大好きなシーンは、

主人公のドライバーが、Seoulに帰る途中で立ち寄った食堂でのシーンだ。

光州を懸命に走ったおかげで空腹の彼は、麺をダマになりながら必死ですする。その様子を見かねた食堂の女性がおにぎりを手渡してくれる。

口にしたとたん、思い出すのは

光州でデモに参加していた女性がくれた、おにぎり。

じんわりと涙が浮かぶ。

彼の心の葛藤が、映像から伝わってくる素晴らしいシーンだ。

しかもおにぎりってところが泣ける。

おにぎりのいいところは、「手で握る」ところだ。愛情が伝わってくる。

このシーンをきっかけに、彼は光州へと戻っていく。

食事のシーンは人が一番素直になれるというか、よい意味で警戒心のない場面。

私は映画を見るとき、食事のシーンが一番好きだ。

 

【最後に】

このように、史実をまっすぐ伝えようとするリアルな映画は今後の財産だと思う。

邦画をあまり見ないので詳しくはわからないが、日本ももっとこういう映画を作ってよいのではと思ったりする。

この映画を通して、韓国の歴史により興味を持ったし、案外韓国語の発音って面白いなと俄然韓国が気になるようになった。

次に韓国へ行くときは韓国語をしゃべれるように…なり…たい……(なれるのか)