【レビュー】ロケットマン
世界の大スター、エルトン・ジョンの半生を、彼の曲とともに振り返るミュージカル調の映画。
成功者の彼も、順風満帆な人生ではなかった。
どん底を味わったからこそ描き出せるカラフルな人生。
心の鎧ともとれる奇抜な衣装の裏には、エルトンがずっと追い求めてきた「愛」への渇望があった。
【心に刺さったまま抜けない歌】
"I’m still standing after all this time
Picking up the pieces of my life without you on my mind"
映画を観終わってから、この歌詞をずっと自分の心に言い聞かせている。
映画の最後に歌われる「I'm Still Standing」は、エルトンが薬物やアルコールの中毒症状を克服する過程で登場する。
一度はどん底に落ちた自分でも、「僕はまだ立っている。色々あったけど、君(過去の自分)を頭から追い払って、(忘れていた)人生のかけらを拾い集めているんだ」
最近、仕事がつらい。
自分が夢と志を持って始めた仕事だけに、中途半端な形で投げ出したくはないし、まだまだやりたいことを何もやれていない。
だけど、つらいものはつらくて。
毎朝、起きると胃が痛む。
このままじゃいけないとわかっていつつも、どうしたら良いかわからなくて、
取り損ねていた夏休みの1日を使って、「ロケットマン」を観に来た。
この曲を歌う主演のTaronの姿は、
「Sing」の時から知っていたが、
あの時の爽やかさとは一味違う、人生の重みを感じさせるような歌声になっていた。
そして、この映画を通して初めて、
Elton Johnが一曲一曲に込めたストーリーというのが伝わって、
この曲を聴いている間は涙が止まらなかった。
わたしの今の状態を表すなら
「I'm Still Standing」という言葉がちょうどいい。
進んでいないかもしれないけれど、まだ崩れていない。立っている。
ここから負けずに歩み出すかどうかはわたし次第。でも、とりあえず生き残っているから。
Eltonの人生になぞらえるにはあまりにもちっぽけだけど、それでも24年間でたくさん、ギリギリ立っている状態を経験してきた。
私ならきっと、今の苦しい状態を次の未来へ生かしていけると思っているし、それを具現化してみせる。
【既視感】
さて、この映画のくだり
既視感があるなと思ったら。
Bohemian Rhapsodyの監督を途中交代した人と同じ人が監督だった。
おまけに、クイーンとエルトンはマネージャーが同じ人。
歌を、本人の人生になぞらえて展開する物語構成も同じだし、
FredyとEltonは共にゲイで、天才的シンガーで、ピアニストで、奇抜なパフォーマーで、AlcoholicでDrag addictで…共通点が多すぎる。
でも、2人とも魅力的なのには変わりない。
Bohemian〜のRamiは、まるでFredyをコピーしたかのような生写しの演技でアカデミー賞を獲得したが、
今作のTaronはなんといっても歌が俳優本人の声、というところがミソ。
個人的には体格も好みドストライクなのだが、歌声も甘く、美しく、表現力豊かで文句なし!!
どの歌も本当に魅力的だ。
【親の愛は子どもの人生を一生左右する】
今作で印象に残ったセリフが二つある。
「あなたを産んだせいで私は苦しんでばかりよ」
こんなセリフが母親から飛び出したら。
耐えられるだろうか。
私は産まれてからずっと
「さなちゃんを産んで幸せだよ」
「パパとさなちゃんと家族になれてよかった」
と母から言われ続けてきた。
自分でも、これ以上ない、素敵な家族だと思う。
でももし、子どもを産むことで不幸になってしまう母親がいるのだとしたら………自分の置かれた状況からは、全く想像できない。
そしてもう一つは
「ハグして?」
幼いEltonが何度も発する言葉。
その言葉を口にしても、叶えてもらえたことはなかった。
ハグというのは、凍った心を溶かしてくれる尊い行為だと思う。
実際、悲しいことがあって母に気持ちを吐露し、泣きついた時、暖かく包み込んでくれた感覚は、今でも覚えている。
東京からの行き帰り、ハグして送り出してくれたり、迎えてくれた嬉しさも、目を閉じればすぐ思い出す。
そういうあたたかな思い出が
少年Eltonには一切ない。
「愛して欲しい」
という心の叫びが歪んだ果ては、
音楽だけでは解消しきれなくなってしまったのだろう。
それほどにも膨れ上がった愛への飢え。
やはり、小さな頃愛された経験というのは、その先の人生を大きく左右されるのかもしれないな、と思った。
近頃は子どもに愛情を注がず、
挙句命を奪ってしまうような親もいる。
親になるということは、
愛されていた立場から
愛を注ぐ立場になることだと私は考える。
だから、まだ愛されていたい盛りならば、親になるには早い気がする。
子どもに愛情を注ぐのと同じくらい、パートナーや家族からたくさん愛を受け取れる環境にあることが、「持ちつ持たれつ」の良い関係だと思う。
この先、いつ自分が親になるのかは想像できないが、
少なくとも今の私はまだ「愛されていたい」ままだ。
ひとまず、自分の仕事を誰かに「愛して」もらえるように。
そして、ありのままの素直な自分を、大切な人に「愛して」もらえるように。
そして相手のことを心から「愛せる」ように。
You know I’m still standing better than I ever did
"いい?わたしは今までやってきたよりもずっと確かな足で立ってるよ"